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東京地方裁判所 昭和27年(モ)5001号 判決

債権者被申立人、債務者申立人間の、当裁判所昭和二十七年(ヨ)第七五八号立木伐採禁止仮処分申請事件について、当裁判所が、同年二月二十六日為した仮処分決定は、保証を立てることを条件として、之を取消す。申立費用は、被申立人の負担とする旨の判決並に、仮執行の宣言を求め、その理由として、

申立人は、被申立人から、別紙目録<省略>記載の原野(以下本件土地と称する)を、牧場用地又は農業用地として使用し、牧場又は農業経営に必要な施設操業を為し、且、右土地に生立する立木を伐採し之を以て、製炭施設操業を為し得る約束で、賃借し、之に乳牛を放牧して牧場を経営すると共に、右立木を伐採して、製炭業を営んで居るものであるが、被申立人は、右賃貸借契約は、契約期間の満了によつて終了したに拘らず、申立人に於て、右土地上に存する立木を依然伐採して居るので、右土地の引渡請求権に伴う残存立木の引渡請求権保全の為め必要があると主張し、申立人を債務者として、当裁判所に対し、立木伐採禁止の仮処分申請を為し、同裁判所の、昭和二十七年二月二十六日附の、「債務者(申立人)は、債権者の所有たる別紙目録記載の原野に存在する立木の伐採をしてはならない。債権者の委任する執行吏(又は、裁判所書記官)は、右命令の趣旨を公示する為め、適当な方法をとらなければならない」旨の、仮処分決定を得て、その頃、その執行を為し、申立人は、同年三月十日、右決定の送達を受けた。しかしながら、右仮処分決定については、次の様な特別事情が存する。即ち、

第一に、右仮処分によつて保全される請求権は、本件土地の引渡請求権に伴う同土地上の立木引渡請求権であるが、その立木は、薪炭用材として使用する外には、さして用途のないものであるから、その引渡を受けても、薪炭用材として売却するか、若くは、之に加工して薪炭となし、売却するかの孰れかの方法をとらざるを得ないのであつて、終局に於ては、金銭にかえざるを得ないものである。従つて、右仮処分によつて保全される請求権は、終局に於て、金銭的補償によつて、その目的を達し得るものである。

第二に、前記仮処分の存する為め、本件土地上の立木を伐採することが出来なくなり、炭材を得ることが出来なくなつた結果、製炭を継続することが不可能となつて居り、この状態が今後永続するときは、収入の途は、全く絶たれ、独り、申立人のみならず、その家族及び、製炭従業員に至るまで、生活に窮するに至ることは、必定であつて、これは、申立人にとつて甚大な損害である。のみならず、この儘で推移するときは、製炭を継続することが出来ない結果、炭の取引は中断し、顧客を失うと共に、信用をも失墜し、製炭業者としては、回復し難い損害を蒙るに至るばかりでなく、経験ある従業員を失い、且炭焼窯は、風雨にさらされて、使用不可能となるのであつて、製炭業に莫大な資本を投じた申立人は、莫大な損害を蒙るに至るのである。之に比し、前記仮処分の取消によつて蒙るべき被申立人の損害は、言うに足りないものであつて、これ以上、右仮処分を存続させることは、不当である。

仍て、申立人に於て保証を立てることを条件として、前記仮処分決定の取消を求める次第である。

と言う趣旨の陳述を為し、被申立人の主張を否認した。<立証省略>

被申立代理人は、

主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、

申立人主張の様な特別事情の存することは、之を否認する。

第一に、本件仮処分によつて保全される請求権は、金銭的補償によつて、その終局の目的を達し得るものではない。被申立人(以下村と略称する)が、本件土地上の立木の引渡を求める所以のものは、村に於て、その引渡を得て之を伐採し、製炭事業を直営し、之を失業救済事業にあてると共に、之によつて得た利益を、村内公共施設の整備拡充費にあてる為めであつて、単なる金銭的利益の取得を目的として居るものではないのである。村内人口は終戦前の平常状態当時に於ては、二千六百人程度に過ぎなかつたのであるが、終戦後は、引揚者その他があつて、人口は約四千人に急増し、加うるに、一小島内のこととて、職に就き得ない者多数を生じ、昭和二十七年当初に於て、失業者名簿に登録されて居る世帯は、二百八十世帯、貧困の為め生活保護を受けて居る世帯は、七十世帯ある状態である。村としては、之が対策として、失業救済事業を行つては居るが、財源が乏しい為め、それ等全員に毎日職を与え得るに足りる事業は行うことが出来ず、僅かに、一日六十一名程度を、交替に、就労させて居るに過ぎないのである。この程度の就労率では、大体、一ケ月間に、一人四日程度就労し得るに過ぎないのであつて、その賃銀も一日金二百四十円程度であるから、一ケ月間に、僅かに、金九百六十円程度の収入しか得られず、これでは、就労者自身の生活すら為し得ないのであつて、況んや、家族を扶養するなどと言うことは、到底出来難いのであるところで、本件土地は、その面積が、実測約二百五十町歩もある広大な土地で、その上には、炭材に好適の雑木が密生し、その全量は、四貫俵にして、優に、二十万俵を製炭するに足りる量があるのであるから、村に於て、之を炭材として、製炭事業を直営し、失業者をその事業に使用すれば、継続事業として、失業者の大部分に職を与えることが出来るのである。のみならず、炭焼なる仕事は、それに経験ある者を指導者とすれば、(炭窯二十個を築造するとすれば、経験者は、二十名で足りるのである)。一般人は、先切り、運搬等に従事すれば足りるのであるから、鋸一挺、斧一挺ありさえすれば、仕事に従事し得るものであるから、何人も、又何等の資金のない者も、極めて簡便に、仕事に従事することが出来るのである。そして、一人一日金三百円程度の賃銀を支給し得る様にすれば一ケ月に二十日間就労すれば、月収六千円程度の収入を得ることが出来るのである。この様にすることは、村民大多数の希望であり、その希望は、村内各部落の代表者連名の書面で、村長に申入れがあり、村当局では、右の趣旨を実現する為め、五ケ年計画で、前記の趣旨に適合する事業の実施計画を立案し、昭和二十七年十一月七日村会の議に附し、その議決を得て居る次第なのである。尚、右事業による収益は、貧弱な村の税収入によつては支出し得なかつたところの、公共施設の整備拡充費、即ち、小学校々舎の改築費及び中学校々舎の新築費の各一部、隔離病舎の整備拡充費、水道改良費等にあてることとし、同時に、村会の議決を得て居る次第である。斯様な次第であるから、本件仮処分によつて保全される請求権は、その終局の目的に照して、到底金銭的補償ではその目的を達し得ないものである。

第二に、本件仮処分を存続せしめても、申立人は、損害を蒙らない。申立人は、従前本件土地上の立木を炭材として製炭したことはないのであるから、本件仮処分が為されたとて、損害を蒙る理はないのである。尤も右立木は、全山(前記の通り実測約二百五十町歩)の百分の二程度は、伐採されて居るが、それは申立人が伐採したのではなく、隣村の田代某外四名に対し、約五町歩の区劃を定めて、立木を炭材として売却し、買受人が伐採して製炭したものであつて、申立人が製炭したのではない。斯様な次第で、申立人は、本件土地上の立木では製炭して居ないのであるから、本件仮処分によつて何等の損害も蒙つて居ないし、営業の上何等の支障も来たして居ない。そればかりでなく、申立人は、本件土地の他に、数百町歩の山林の立木を、炭材として使用する権利を有し、それを伐採して、製炭して居るのであるから、本件土地上の立木を炭材として使用し得なくとも、製炭業には、何等の支障も来さないのであるから、取引が中断したり、信用を失墜させたり、顧客を失つたりする様な結果を招来することはあり得ない。又本件土地上の立木を伐採して、製炭をしたことがないのであるから、大資本を投下したと言うこともないし、従業員を使用したこともないのである。従つて、右立木を炭材として製炭が出来ないからと言つて、投下資本の回収不能と言うこともないし、従業員が、生活に窮すると言う様なこともないのである。尚、本件土地上の立木によつて製炭したことのないことは、前記の通りであるから、炭窯の設備もないのであつて、従つて、その損壊と言うこともあり得ないのである。斯様な次第であるから、本件仮処分の存することによつて申立人が、損害を蒙ると言う様なことはないのである。

第三に、本件土地上の立木は、村の唯一の財産と言うべきものであるから、それから生ずる利益は、一個人に独占させるべきものでなく、村民全体の利益となる様に使用されなければならないものである。ところで、村内には救済を要する多数の貧困者、失業者が居るのであつて、その救済は、緊急を要し、更に、村民全体の為めに、公共施設の整備拡充を要するので、右財産は、先ずこれ等に使用されなければならないのである。然るところ、若し、本件仮処分が取消されるときは、従来の申立人の操業方法から推して、申立人は、自ら製炭しないで、右立木を分割し、之を他に売却して、直に、多額の利益を獲得することは、明白である。そうなると、その利益は、個人たる申立人一人が、之を独占することとなり、貧困者、失業者の救済は不可能となり、公共施設の整備拡充も出来なくなり、甚だ不当な結果を招来するに至るのである。のみならず、右の様にして売却された右立木は、多数の人々によつて伐採されることになるから、本案訴訟の終結に至るまでには、残存立木が皆無になると言う様な結果を招集するに至るかも知れないのであつて、斯くては、勝訴の判決を得たとて、一人の貧困者、失業者も救済されず、利益を得る者は、申立人及びその取引者だけであつて、村のみは莫大な損害を蒙ると言う甚だ以て不当なる結果を招来するに至る虞があるのである。この様な、不当な結果を招来することの許されないことは、論を俟たないところであるから、本件仮処分は、取消されるべきものではないのである。又、従来の申立人の操業方法から推すと、その製炭業に使用する従業員は、専ら福島県その他の他県人や隣村住民等であつて、村民を従業員として使用すると云うことは、殆んどないのであるが、これは、自己の利益を追及するに急な余り、労働能力の優秀な者のみを使用しようとするのであつて、若し、本件仮処分が取消され、申立人自身に於て、前記立木を炭材に使用し、製炭するとなると、右と同様の結果になることは、必定であつて、そうなると、労働能力に於て優秀でない貧困者や失業者は、その従業員となることも出来ず、村で種々の方法を講じて居る失業対策に、何等の利便も与えられないことになるから、この点からしても、右仮処分は、取消さるべきではないのである。更に、申立人は、村内随一の資産家であつて、同人に、特に、利益を与えねばならないと言う様な特段の事情などは全くないのであつて、右立木を炭材とする製炭を為さなくとも、その生活には何等の支障を来さないのであるから、本件仮処分を取消すべき特別の事情などは、毫も存しないのである。

以上の次第で、何れの点からしても、申立人の申立は、理由がないから、その申立却下の判決を求める次第である。

と言う趣旨の陳述を為した。<立証省略>

三、理  由

被申立人が、申立人を債務者として、当裁判所に対し、申立人主張の理由で、その主張の仮処分申請を為し、同裁判所の、その主張の日附の、その主張の内容の、仮処分決定を得て、その頃その執行を為し、その主張の日頃、申立人が、その決定の送達を受けたことは、当事者間に争がない。

そうすると、本件仮処分によつて保全される請求権は、別紙目録記載の土地の引渡請求権に伴う、その土地上の立木の引渡請求権であることが明かである。

ところで、申立人は、右立木は薪炭用材として使用する外には、さして用途のないもので、その引渡を受けても、薪炭用材として売却するか、又は薪炭となして、売却するかの、孰れかにせざるを得ないので、終局に於てその取得するところのものは、金銭に外ならないから、本件仮処分によつて保全される請求権は、結局、金銭的補償によつて、その終局の目的を達し得るものである旨主張するのであるが、

当裁判所が真正に成立したと認める乙第十一号証、同第十二号証の一乃至三、同第十五号証の一乃至四、同第十四号証、同第二号証の二、三、同第八号証と証人松岡精一、沖山峯一、沖山温和の各証言並に被申立人代表者訊問の結果(第一、二回共)とを綜合すると、

本件土地はその実測面積が、約二百五十町歩ある広大な土地で、その土地上には、炭材に好適な樹齢十五年乃至三十年位の雑木が密生し、その雑木の全量は、炭材として、優に、一俵四貫入のもの二十万俵を製炭し得るに足りるだけの量があること、右立木は、村の最大の財産であること、村内には救済を要する多数の失業者があること、村民大多数の意見として、村の最大の財産である右立木は申立人一個人の利益となる様なことは、させないで、之を炭材として、村で、製炭事業を直営し、失業者救済事業となし、その収益を以て公共施設の整備拡充費に充てる様にせよと言う意見があり、これ等大多数の村民の意見を代表して、村内各部落長から、その連署の昭和二十七年七月十日附の書面で、村長に対し、その旨の要望が為されたこと、その結果、同月十六日、村役場で、村会協議会が開催され、同協議会は、右要望を取上げて、製炭直営事業計画委員会を設置する旨の決議を為し、この委員会は、前記要望の趣旨に則つて、本件土地上の立木を炭材として、失業者救済の為めの、五ケ年間の、村の直営継続事業として、製炭事業を施行する旨の計画並にその収益による公共施設の整備拡充計画を立案し、同年十一月七日の村会に村長提案名義で、その案を上程し、その議決を経たこと、

を一応認めることが出来る。

右認定に反する甲第八乃至第十号証、同第十二号証、証人奥山権四郎、菊地彦三郎、津沼初男、山本与一の各証言中右認定に反する部分、及び申立人本人訊問の結果(第一回及び第三回)中右認定に反する部分は、孰れも措信し難く、証人木村靖二、大西正二の各証言並に甲第十三号証の存在は、右認定の妨げとはならないのであつて、他に、右認定を動かすに足りる疏明はない。

そうすると、村が、本件土地上の立木の引渡を求める終局の目的は、失業者救済の為めに、村が、右立木を炭材として、製炭事業を、五ケ年の継続事業として直営し、併せて、その収益を以て、村の公共施設の整備拡充を為すことにあると認められるから、本件仮処分によつて保全される請求権は金銭的補償を以てしては、その終局の目的を達することが出来ないものであるとしなければならない。尤も、村の公共施設の整備拡充の点は右事業の収益によつて行うことになるから、金銭的補償があれば、結局、その目的を達し得ることになるのであるが、その収益は、事業の結果であつて、右事業の目的ではないから、換言すれば、事業そのものは、あくまでも失業者の救済にあるのであるから、偶々、その結果が、金銭的補償で目的を達し得たとしても、前記事業の終局の目的が、金銭的補償でその目的を達し得ることにはならないのである。斯様な次第で、本件仮処分によつて保全される請求権は、金銭的補償では、その終局の目的を達し得ないものであるから、申立人の右主張は、理由がない。次に、申立人は、本件土地上の立木を炭材として製炭業を営んで居るものであるが、本件仮処分の存する為め、右立木を伐採することが出来なくなり、炭材を得ることが出来ない結果、製炭を継続することが不可能となつて居り、この状態が今後継続するときは、収入の途は全く絶たれ、独り申立人のみならず、その家族及び製炭従業員に至るまで、生活に窮するに至るばかりではなく、この侭推移するときは、炭の取引は中断され、取引先を失うと共に、業者の信用を失墜し、経験ある従業者は得られなくなり、炭窯は、風雨にさらされて、使用不可能となり、製炭事業に多額の資本を投じた申立人は、甚大な損害を蒙るに至る旨主張するのであるが、

申立人が、多額の資本を投じて、本件土地上に製炭施設を設け、多数の従業員を雇入れ、その土地上の立木を伐採して、製炭業を営んで来たと言うことを認めるに足りる疏明はないのであつて、(この点に関する。証人菊地彦三郎(第一、二回共)、菊地宮次、奥山権四郎、浅沼初男、山本与一の各証言、並に申立人本人訊問の結果(第一、二、三回共)は後顕疏明に照し、措信し難く、他に右事実を推認するに足りる疏明はない)。(尤も、本件土地について、申立人が、賃料の支払を為して来たことは、弁論の全趣旨によつて認められるところであるが、それは、製炭業を営む為めの資本とは解せられないのであつて、後記認定の事実と、当裁判所が真正に成立したと認める甲第二号証、同第六号証と証人菊地宮次の証言とを綜合すると、申立人は、本件土地に於ては、その立木を伐採して製炭をして居たのではなく、専ら、牛を放牧して牧場を経営して居たと推認されるので、その賃料も専ら牧場経営の為めの資本と言うべきであつて、若し、他に資本を投下したものがあるとすれば、それも右と同様に、牧場経営の為めの資本であつたと解するのが相当である)。却つて、当裁判所が真正に成立したと認める乙第三号証の二、同第四号証、同第九号証の一乃至五、同第十号証の一、二、同第十二号証の二、同第十四号証と証人沖山温和、松岡精一、菊地彦三郎(第二回)奥山権四郎の各証言並に被申立人代表者訊問の結果(第一、二回共)とを綜合すると、

申立人は、本件土地上の立木の外に、相当広大な土地上の立木を、炭材として伐採することの出来る権利を有し、従来、本件土地上の立木以外の、右土地上の立木を伐採して、製炭業を営み、本件土地上の立木は、専ら、之を他人に売却して、製炭せしめ、その他人の製炭したものを買受け、之を販売し、自ら本件土地上の立木を伐採して製炭したことはなかつたことが一応認められるので、申立人が、多額の資本を投じて本件土地上に製炭施設を設け、多数の従業員を雇入れ、本件土地上の立木を伐採して、製炭業を営んで来たという様なことはないとしなければならない。そうすると、申立人は、製炭業を営んでは居るものの、それは、本件土地上の立木を炭材として為して居るものではなく、本件土地以外の土地上の立木を炭材として為して居ることになるのであるから、本件土地上の立木に関する限り、それを炭材として製炭する為めの施設も、従業員もなく、又その為めの資本の投下もないこと勿論であつて、本件土地上の立木自体も、その製炭業には関係がないと言はなければならない。そうすると、本件仮処分によつて、本件土地上の立木の伐採が禁止され、それを炭材として使用することが出来ないからと言つて、製炭業が出来なくなると言う様なことはあり得ないし、従つて、申立人やその家族が生活に窮すると言うこともないし、又取引先を失つたり、業者の信用を失墜したりすることもないし、その余の申立人主張の事実の起り様もないのである。従つて、本件仮処分の存することによつて、申立人が損害を蒙ると言うことは、殆んどあり得ないところであると言はなければならない。尤も、本件土地上の立木の伐採が禁止せられて居る結果、之を他人に売却し、之を製炭させて、買受け、之を他に転売して利益を受けると言うことは、出来なくなつたから、その様にして得られる筈の利益が失はれることは、多言を要しないところであるが、この様な利益の喪失は、仮処分によつて当然生ずる結果であり、而も多大な損害であるとは言い得ないものであるから、仮処分によつて通常生ずる損害の範囲を出ないものと解するのが相当である。尚、若し、本件仮処分が存しないで、申立人に於て、本件土地上の立木を自由に伐採し、之を炭材として、製炭することが出来るならば、多大の利益を収め得るであろうことは、本件全疏明に徴し明かであるに拘らず、本件仮処分が存する為めに、その利益を収めることが出来ないで居るのであつて、これは申立人にとつては、甚大な損害であると言い得るのであるが、この点については、申立人は、特段の主張をして居ないばかりでなく、仮に主張したとしても、申立人に、右立木を自由に伐採して製炭を許すときは、本案判決の確定に至るまでに、その立木の全量を、伐採し尽くす虞のあることが、弁論の全趣旨と、申立人本人訊問の結果(第一及び第三回)及び被申立人代表者訊問の結果(第二回)とを綜合して認められるので、そうなると、前記認定の本件土地上の立木を炭材として為す、失業者救済の為めの、村直営の製炭事業は、全く成立の余地がなくなり、独り申立人のみ利益を得ると言う結果を招来し、村最大の財産(本件土地上の立木が、最大の村有財産であることは、前記認定の通りである)が、何等村民全体の為めの利益となるところがないと言う不当な結果になるので、それは、結局法に言うところの特別事情にはならないと解するのが相当である。従つて、申立人の右主張も亦理由がない。以上の次第で、申立人の本件申立は、理由がないから、却下されなければならない。仍て、本件申立は、之を却下し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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